国による中小企業の事業承継の支援制度
多くの労働者を雇用し地域経済・社会を支える中小企業において、経営者の高齢化が進んでおり、後継者を確保できずに廃業する例も増えています。そのような損失を防ぐため、M&Aを含む事業承継※を支援する仕組みが多数講じられています。
後継者不在の小規模事業の経営者は、自分の会社を廃業することが社会的な損失であると認識していないことも多く、専門家による積極的な働きかけが必要と言われています。
また、多くの中小企業において、事業承継に取り組むのは初めてであることが多く、その検討・実行の過程において外部の専門家によるサポートを受けることは非常に有益です。
しかし、この外部専門家の手数料や契約条項等は玉石混交であり、中小企業庁が公表した「中小M&Aガイドライン」を遵守する等の基準を満たした者を「登録FA・仲介業者」とする、M&A支援機関の登録制度が創設されました。
※事業承継における継承者(受け継ぐ側)は、@親族、A社内(役員・従業員)、B社外の3つに分けられます。中小M&Aガイドラインにおいては、Bの「社外へ承継する事業承継」を広く「中小M&A」としています。
同じく中小企業庁が実施する「事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用型)」においては、一部の専門的な業務(弁護士・会計士・社労士等によるデューデリジェンスの費用、司法書士に依頼する登記の費用等)を除き、登録FA・仲介業者でない者による中小M&A手続きの総合的な支援業務を補助対象外とすることになりました。
(正確な内容は補助金の公募要領等を確認してください。)
この登録制度は、M&A支援機関としての能力等を保証するものではありませんし、補助金を利用しない場合には直接的な影響はありません。
しかし、国の作ったガイドラインを守るといった最低限の基準も満たそうとしない民間事業者を、支援機関としてあえて選ぶ必要性は低いように思います。
また、@親族、A社内(役員・従業員)の人材への事業承継が可能な場合でも、もしB社外への事業承継をする場合にはどうなるのか?をアドバイスできる者を活用することが有益なこともあるでしょう。
中小M&Aガイドライン遵守の宣言
当事務所は、上記の「登録FA・仲介業者」に登録されました。
登録FA・仲介業者に義務付けられた中小M&Aガイドライン遵守の宣言について、以下のとおり掲載します。
遵守を宣言した内容
- 仲介契約・FA契約の締結
- 業務形態の実態に合致した仲介契約・FA契約を締結する。
- 契約締結前に依頼者に対し仲介契約・FA契約に係る重要な事項について明確な説明を行い、依頼者の納得を得る。
説明すべき重要な点は以下のとおりである。
- 譲り渡し側・譲り受け側の両当事者と契約を締結し双方に助言する仲介者、一方当事者のみと契約を締結し一方のみに助言するFAの違いとそれぞれの特徴
- 提供する業務の範囲・内容(マッチングまで行う、バリュエーション、交渉、スキーム立案等)
- 手数料に関する事項(算定基準、金額、支払時期等)
- 秘密保持に関する事項(秘密保持の対象となる事実、士業等専門家等に対する秘密保持義務の一部解除等)
- 専任条項(セカンド・オピニオンの可否等)
- テール条項(テール期間、対象となるM&A等)
- 契約期間
- 依頼者が、仲介契約・FA契約を中途解約できることを明記する場合には、当該中途解約に関する事項
- 最終契約の締結
- 最終契約の締結に当たっては、契約内容に漏れがないよう依頼者に対して再度の確認を促す。
- クロージング
- クロージングに向けた具体的な段取りを整えた上、当日には譲り受け側から譲渡対価が確実に入金されたことを確認する。
- 専任条項
- 依頼者が他の支援機関の意見を求めたい部分を仲介者・FAに対して明確にした上、これを妨げるべき合理的な理由がない場合には、依頼者に対し、他の支援機関に対してセカンド・オピニオンを求めることを許容する。ただし、相手方当事者に関する情報の開示を禁止したり、相談先を法令上又は契約上の秘密保持義務がある者や事業承継・引継ぎ支援センター等の公的機関に限定したりする等、情報管理に配慮する。
- 専任条項を設ける場合には、仲介契約・FA契約の契約期間を最長でも6か月〜1年以内を目安として定める。
- 依頼者が任意の時点で仲介契約・FA契約を中途解約できることを明記する条項等(口頭での明言も含む。)も設ける。
- テール条項
- テール期間は最長でも2年〜3年以内を目安とする。
- テール条項の対象は、あくまで当該M&A専門業者が関与・接触し、譲り渡し側に対して紹介した譲り受け側のみに限定する。
- 仲介業務を行う場合における特則
- 仲介契約締結前に、譲り渡し側・譲り受け側の両当事者と仲介契約を締結する仲介者であるということ(特に、仲介契約において、両当事者から手数料を受領することが定められている場合には、その旨)を、両当事者に伝える。
- 仲介契約締結に当たり、予め、両当事者間において利益相反のおそれがあるものと想定される事項(※)について、各当事者に対し、明示的に説明を行う。また、別途、両当事者間における利益相反のおそれがある事項(一方当事者にとってのみ有利又は不利な情報を含む。)を認識した場合には、この点に関する情報を、各当事者に対し、適時に明示的に開示する。
- 確定的なバリュエーションを実施せず、依頼者に対し、必要に応じて士業等専門家等の意見を求めるよう伝える。
- 参考資料として自ら簡易に算定(簡易評価)した、概算額・暫定額としてのバリュエーションの結果を両当事者に示す場合には、以下の点を両当事者に対して明示する。
- あくまで確定的なバリュエーションを実施したものではなく、参考資料として簡易に算定したものであるということ
- 当該簡易評価の際に一方当事者の意向・意見等を考慮した場合、当該意向・意見等の内容
- 必要に応じて士業等専門家等の意見を求めることができること
- DDを自ら実施せず、DD報告書の内容に係る結論を決定しないこととし、依頼者に対し、必要に応じて士業等専門家等の意見を求めるよう伝える。
※例:譲り渡し側・譲り受け側の双方と契約を締結することから、双方のコミュニケーションや円滑な手続遂行を期待しやすくなる反面、必ずしも譲渡額の最大化だけを重視しないこと
- 上記以外の中小M&Aガイドライン記載事項について
- 上記の他、中小M&Aガイドライン中「M&A専門業者」に関する記載事項について中小M&Aガイドラインの趣旨(*)に則った対応をする。
*中小M&Aガイドライン(p.8)では、「M&Aに関する意識、知識、経験がない後継者不在の中小企業の経営者の背中を押し、M&Aを適切な形で進めるための手引きを示すとともに、これを支援する関係者が、それぞれの特色・能力に応じて中小企業のM&Aを適切にサポートするための基本的な事項を併せて示す」ことが示されている。